○はじめに
海藻の群落=藻場は、ガゴメやコンブなどの有用海藻やアワビ、ウニなどの「海の幸」の生産の場(漁場)
として、漁業を生業とした地域にとっては重要な役割を果たしています。
また、自然界では魚や貝類などの餌場、産卵場、稚魚の育成場として重要な役割を果たしています。
近年においては環境問題の観点からも、二酸化炭素の抑制や水質の浄化などに重要な役割を果たして
いることが認知されはじめましたが、埋立てや環境悪化、磯焼けなどによって急速に減少して来ています。
一方、ホタテ貝の生産量は年間45万トンほど生産されています。主に剥き身に加工されて出回るため、産
業廃棄物としての貝殻が毎年20万トンほど発生しています。排出される貝殻のおよそ半分は有効利用され
ていますが、地域においては、処理方法、処理費用、処理場所など様々な問題を発生させています。
そこで、このホタテの貝殻を漁礁(藻場礁)ブロックの着生基質(海藻類が付着する部分)素材として使用
することで、漁業生産の向上と産業廃棄物の有効利用をいっきに図ることを目的とし開発に着手しました。
○目標
現在処理されているホタテの貝殻をそのままの大きさで使用できること。ある程度貝殻が剥離できる構造
とすることで、新しい着生面に海藻類の胞子が着き毎年藻場ができること。石やコンクリートなどとの比較か
ら、1uあたり1.5倍程度の着生面積を確保する漁礁(藻場礁)の開発を目指しています。
(貝殻はある程度野積みにされたものを使用ています。)
○これまでの試験結果
ホタテの貝殻の成分分析、着生基質の強度特性の把握、着生基質の製造、施工性の検証を行なってい
ます。
・ホタテの貝殻の成分分析
|
砂原 |
網走 |
青森県平内 |
CaCO3 |
98.02±0.0956 |
97.35±0.6026 |
98.08±0.1353 |
MgCO3 |
0.84±0.0830 |
1.00±0.2047 |
0.79±0.0898 |
SrCO3 |
0.16±0.0047 |
0.26±0.1021 |
0.15±0.0043 |
成分の約99%は、CaCO3(炭酸カルシュウム)とMaCO3(炭酸マグネシウム)とCrCO3が占めていて、この3
成分は地域による差が見られません。CaCO3は石灰石やサンゴの主成分であり、自然界にごく普通に存在
し環境に悪影響を及ぼさないものであると考察されます。
・着生基質の強度特性の把握
ホタテ貝殻を使用した着生基質の圧縮強度、曲げ強度を測定しています。コンブの根の強度を測定する
ことで、採取時に根から脱落すると思われる基質強度を把握し、経年効果が期待できる着生基質の強度
としています。
・着生基質の製造、施工性の検証
通常のコンクリート工場で製造することが可能です。一般コンクリートと同様に、ミキサー車への積込、運
搬、そして現地での荷卸が可能な施工性を持っています。
○実施検証
コンブなど海藻類の着生と効果を実証するため、初年度、それぞれに配合と製造方法を変えた試験体を
5基製作し(長さ600mm、幅300mm、高さ200mm)、既存の漁礁にセットし比較試験を行ないました。
その結果、1基の試験体にコンブが30本ほど着生していることが確認されました。他の配合基質はコン
ブの着生は2〜3本で、中にはまったく着生していない試験体もありました。
初年度の結果を元に配合を調整しコンクリート工場で製造、ミキサー車で運搬し現地施工を行い試験礁
を製作しています。
試験礁はコンブの着生を確認する為、一般石材と共に水深−5mの砂質海底へ設置しています。砂質海
底へ試験礁を設置するため、試験礁のデザイン設計後に流体解析(流れの解析)を行い、既存漁礁(藻場
礁)との比較を行っています。この時製作した試験礁から、現在のホタテ貝殻着生基質の配合条件を確立
しています。
調査の結果、一般石材のコンブ着生本数168本/uに対し、ホタテ貝殻着生基質は平均357本/uと
2倍以上の着生が確認されています。ホタテ貝殻着生基質は構造上空隙が多く、起伏のある凹凸が内部
まで構成されていることから、見かけ以上の着生面積があります。
○まとめ
ホタテ貝殻着生基質は構造的特徴から、コンブ以外の海藻、例えばガゴメ、ワカメ、ホンダワラ類、アラメ、
カジメなど藻場を構成する海藻類にも効果があると考えられます。現在、ガゴメ、ホンダワラ類での調査を行
っていましたが、ガゴメに関しては良好な結果が得られるであろうと期待されています。
近年、ガゴメ、ワカメ、モズクなどの海藻類にはフコイダンという成分を多く含んでいることが判り、癌の抑
制に効果があるのではないかと言われています。また、肌に対しては美肌、保湿、抗アレルギー性があるこ
とも判ってきています。他にもガゴメには、アルギン酸、ラミナランが多く含まれ、肌に対してはフコイダンと同
様の効果があることが判ってきています。そのため、これまで以上に医薬品、健康食品、化粧品などへの活
用が広まりつつあります。
これらの海藻類の資源増産と、産業廃棄物としてのホタテ貝殻の有効大量利用(消費)が同時に期待でき
る技術を確立し、生産の代償として排出された産業廃棄物を、現地で処理し有効活用することが本来あるべ
き循環型社会であると考えます。北海道ならではの一例として、ホタテ貝殻を使用した資源循環型社会のしく
み作りはこれからの時代・社会で大きな役割を担うものと考えています。